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それでも愛してる 1 [天使が啼いた夜 番外編]

今までのアップ分を3話にまとめました。



杉山光流(すぎやま ひかる)十八歳は、このマンションに住み始めて一年が過ぎた事を、母親の一年忌を迎えて改めて思い出した。
(もう一年……)光流は一年前に唯一の肉親だった母を、交通事故で亡くした。
遠縁の肉親はいた。だが父親を五年前に亡くしてから、親戚付き合いは全くという程無くなっていた。だが母の死を機会に何人かの親戚という人間と会った。
光流は未成年である自分の後見人になるという申し出を、素直に受け入れられないでいた。

貧しい生活の中、保険などには入っていなかったが、相手方の保険で三千万の保険金が下りた。今まで殆ど親戚付き合いの無かった名ばかりの親戚を、光流は信じる事が出来なかった。贅沢かもしれないが、母が残してくれたお金で大学までは行きたいと願っていた。

母の遺品を整理している時に、文箱から何通もの葉書を見つけた。そこには浅田総一郎の名前が書かれていた。時候の挨拶の最後に毎回『何か困った事があったらいつでも訪ねてきなさい』と言葉が添えられていた。

光流は、この人なら信用できそうな気がしていた。光流は葉書の住所を頼りに、浅田総一郎を訪ねた。
芳名帳には名前があったが、光流はその顔を初めて見て失望を隠せなかった。
だが浅田は訪ねて来た光流を、気持ち良く迎えてくれた。
「お母さんの葬式に出席できないで申し訳なかった」と光流に頭を下げてくれる。
事情を聞けば、丁度ぎっくり腰になり息子を代理で出席させたと説明してくれた。
「ぎっくり腰ですか……」
「ああ、息子に酷く叱られたよ、年甲斐も無く児童とドッチボールなどするからだと」
「ドッチ……」その理由に光流も失笑してしまう。

「今日はどうした?」
「はい、僕の後見人になって頂けないでしょうか?」
「後見人に?」
「はい、生活に掛かる費用は自分で出します。一人でも生活出来ます。でも……」
「そうだな、君は未成年だから法的には一人暮らしなどさせられないな」
「はい……」
「実は私も気にはしていたのだが、私よりも近い親戚はいるだろうからと、遠慮していたんだ」
「あの人達は……」光流は自分が手にした保険金目当てとは、浅田に言えなかった。未成年である自分はそのお金すら自由にする事は出来ないのだ。

「光流君、高校は何処だ?」
「都立早川高校です」
「そうか、優秀だな」
そう言うと浅田は、何かを考えるように黙りこくった。
光流は、浅田が次に口を開くのを静かに待った。

「いいだろう、私が後見人になろう」
「あ……ありがとうございます!」少しだけ光流に明るい光が差した。光流は法的な事が解決されれば、一人で暮らす事など何でも無かった。真面目に高校に通い、大学へも進学するつもりでいた。

「君が成人するまで、一人暮らしは駄目だからな」そんな光流の心を見透かしたように、浅田が釘を刺した。
「じゃ……どうすれば?」
「ここからじゃ君の高校に通うのは、少し時間的にキツイだろうから、うちの息子の部屋に居候すればいい」
「息子さんの?」そう言えば、自分の代わりに、息子を葬式に出席させたと言っていた。
「ああ、あれのマンションからだったら、高校まで三十分くらいだ。勉強する時間も充分に取れる。大学にも行きたいのだろう?」

「……はい」言い出しにくい事を言ってもらえて、光流は胸が熱くなる思いだった。
そんな光流に満足したように浅田も頷いていた。
「勉強は好きなだけした方がいい」さすが教育者だ、学びたい心を気づいてくれた。

「あ、でも息子さんに断りもしないで、決めるわけには……」
「大丈夫だ、どうせ寝に帰るだけの部屋だ。息子はDOMOTOという会社で、社長秘書なんぞやっている。忙しさにかまけて恋人すら居ない……まぁ仕方ないか……」
最後の一言は、諦めたような口調だった事に光流は首を傾げた。
高校生の光流ですら、DOMOTOという会社は知っている、そこの社長秘書だったら、かなり有能なのだろうと察しが付いた。

「あの、もし息子さんが少しでも、いやな素振りや迷惑だと言われたら無理じいしないで下さいますか?小父さんが一人暮らしは駄目だと言われるのでしたら、ここの物置にでもおいて下さい。一時間半くらいなら通えない距離じゃないので……僕……」
光流は自分で言っていて何故かとても寂しくなった。勉強できる環境を与えてくれるという人がいる事だけでも感謝すべきなのに、自分で物置などと言ってしまい、自分が哀れで惨めだった。

「まあ、そんなに結論を急ぐ事はない。ちょっと待ちなさい」
そう言うと、浅田は電話を取り上げ何処かに掛けていた。
誰かと挨拶を交わしているのを、光流はぼんやりと眺めていた。

暫くすると電話の相手が変わったのか口調が砕けたものになった。
「おい、高校生を預かる事にした、お前の部屋においてやれ」何の飾りも説明もない言葉に光流の方が慌てた。
「お、小父さんそんな言い方したら……」上手く行くものも行かなくなる。そう言いたかったが、光流はその口を閉じた。自分が何かを言える立場では無い事に気づいたからだった。


光流の心配と不安を他所に、その後二言三言言葉を交わし、浅田は電話を切った。
「えっと光流君?」
「小父さん……」
きっと駄目だと言われたに違いない、すまなそうな顔の浅田を見て光流は内心項垂れた。

「光流君……」「は、はい……」
「急な事で悪いのだが、日曜日しか空いていないそうだ。日曜日に光流君の所に行かせるよ」
「え……?」
光流は浅田の言っている事が理解出来ずに、目を白黒している。
「ん?」そんな光流に不思議な視線を浅田は送った。

「光流君の今の住まいは賃貸だった?」
「はい、二DKの賃貸で母と暮らしていました」
「引き払うのに未練はないかい?」
「……はい」
生まれた時から持家に住んでいたら、愛着も未練も、そして何よりも思い出があるだろうが、幸か不幸か住居に関してそういう愛着は無かった。

「そうか、では私の方で引き払う手続きをしてもいいか?後見人として?」
「は、はい。お願いします。お世話をお掛けします」
深々と頭を下げる光流のその頭を、まるで子供にするように、浅田は撫でた。
頭を下げたままの光流は目頭が熱くなり、直ぐには顔を上げる事ができなかった。

「ありがとうございます、小父さん」
「ああ、困った時はお互い様だ。うちの息子もたまには役に立つってもんだ」
「あの……本当に息子さんは大丈夫って言われたのですか?」
電話のやり取りがあまりにも、簡単で早かった事で光流はまだ信じられないでいた。
普通ならもっともめてもおかしくは無い。突然見ず知らずの子を住まわせろと言われて、簡単に承諾する者がいるとは思えない。

「とにかく一緒に暮らしてご覧。不都合があったら、その都度考えればいい事だ。先ずは行動する事が大事だよ」
「はい……本当に……」光流は再び声を詰まらせ、それ以上は言葉に出来なかった。
「若い人は甘えればいいのだよ」
光流は、この人の息子ならば心配は要らないと思った。


―――その頃、DOMOTOでは

「親父さん急に何だったんだ?」
「子供の世話をしろって……」
いつが都合いいかと聞かれ、日曜日しか体が開いていない旨を伝えたが、浅田はまだ本当の事情を理解してはいなかった。
業務終了した時間は、言葉使いに遠慮もいらない親友同士だ。そこにノックの音がする。
仕事が終わったら勝手に入って来いと何度言っても、紫苑は真面目にドアをノックする。

「失礼します」
紫苑曰く、誰が社長室の中にいるか分からない状況で不作法は出来ないという事だ。
「お疲れ」
「はい、お疲れ様です」一日が終わったというのに朝の爽やかさをキープしている紫苑に、紫龍が優しい笑みを向けた。

「あ、紫苑日曜日何も無かったよな?」
「はい、特に予定は入れていませんよ」
「浅田が赤ん坊の世話をするそうだ、一緒に行くか?」
「あ、赤ちゃん!?でも、どうして浅田さんが?」
「何か知らんが、浅田の親父さんの言いつけらしい」
「僕も赤ちゃんと遊びたいです」

「ふふ、そうか紫苑は赤ん坊のあやし方が上手そうだな」
紫龍が何を想像しているのか、目尻を下げてそんな事を言った。
「僕、赤ちゃんの世話はした事ありません。自分よりも年下の人間って周りにいないんです」

祖母に育てられ、大人に囲まれて育った紫苑だ。自分よりも小さい者弱い者には、あまり縁が無かった。
「凄い楽しみです、本当にお邪魔して良いですか?」
浅田に向かって確認する紫苑を後ろから、紫龍が抱きしめている。
「いいですけど……当日になってドタキャンは無しにして下さいよ」
浅田はその言葉を紫龍に向けて言った。



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それでも愛してる 2 [天使が啼いた夜 番外編]

日曜日の午前中、光流は緊張した面持ちで迎えを待っていた。
浅田の小父の指示に従って、手荷物以外の必要な物は昨日教えてもらった住所に発送を済ませてあった。あとは直ぐ使う物を旅行鞄2つに分けて準備もした。

指示通り大きな荷物は全て処分してある。もう光流がここを出れば部屋には何も残らない。部屋の掃除も昨日綺麗に済ませた。光流一人では何も出来なかったかもしれないが、浅田の奥さんが来て手伝ってくれたのだ。何から何まで世話になってしまい光流は、感謝しても感謝しきれない程の恩を感じていた。
「貴方が亡くなったご両親に恥じない立派な大人になる事が、恩返しなのだから気にしなくてもいいのよ」と奥さんに言われ、その言葉に素直に従った。

「遠い所に手伝いに来て下さってありがとうございます」
光流は心からそう思って深く頭を下げた。
「何か困った事があって、うちの息子に言えない事があればいつでも私に言ってきなさいね」と、これもまた浅田の小父と同じように頭を優しく撫でてくれる。
小学校の校長をしている浅田と以前教師をしていたその妻は、光流に対しても自分の教え子のように優しく接してくれる。


―――バタン
アパートの外で車のドアが締まる音がした。
続けて三回その音が響き、光流は自分の待つ人では無いと思い上げかかった腰をまた下ろした。
―――コンコン
だが予想を裏切って、ドアが静かにノックされ光流は慌てて立ち上った。

「はい」光流はドアを開け、目の前に立つ男をじっと見詰めた。
(やはりこの人だった……)
光流は、葬式の日にこの男を見た。参列者の少ない地味な葬式に、黒塗りの……それも運転手付のベンツで来た男だ。フレームレスの眼鏡に黒いスーツ姿で、きりっとした姿は仕事が出来る男だと知らしめる。そして多くの人の視線を集めていた。

「えっと?浅田総一郎の息子だけど……」
あの時の印象と違い、何だか自信なさそうな発言に光流は何も言えずに瞬きをした。
お互いに、玄関の薄い扉一枚に半身を隠しながら、どちらからともなく次の言葉を待った。

その時浅田の背中を押すように、脇から若い男が顔を覗かせた。
「ねえ浅田さん、赤ちゃんどこ?」
「え……っ赤ちゃん?」若い男の言葉に、光流は大きく瞬きをしてその動きを止めた。

「僕、櫻井紫苑です。こんにちは、今日は赤ちゃんのお世話に来ました」
普段の表情を知らない光流ですら、この青年の顔がわくわくと期待に満ちているのが分かった。
「赤ちゃん……?」光流は知らず知らずに同じ言葉を繰り返す。

「おい、浅田いつまで入口で固まっているんだ?紫苑が楽しみにしているんだから、早くしろよ」と半分しか開いていない扉を、大柄な男が思いっきり全開した。
光流は目の前にいる自分よりも年上の男三人に一斉に視線を浴びせられ、頭が真っ白になってしまった。

「おい浅田、赤ん坊は何処にいる?」
大柄な男が、浅田の息子に不機嫌そうな声で聞いているのを光流はぼんやり眺めていた。
「俺は赤ん坊だとは言っていない、子供だと言ったんだ。勝手に勘違いして俺に当たるな」
浅田は紫龍の不機嫌さを、きっと夕べ紫苑に拒否されたせいだと読んでいた。

「あの……最初から赤ちゃんなんてここにはいません……」
やっと光流が口を利けた。
がっくりと若い男が肩を落とすのを、申し訳ない気持ちで光流は見た。
「いつまで玄関先にいるつもりだ?中に入るぞ」
若い男の肩を抱くように、大柄な男が部屋の中に押し入った。

「あれ?何も無いね?もしかして今日引っ越しして来たとか?」
若い男に聞かれ光流は首を振った。
「あの……浅田の小父さんには何も聞いていらっしゃらないのですか?」
「おい、浅田どういう事だ?」浅田の代わりに大柄な男が返事をした。

二人の男と光流を部屋に残し、浅田は外に出て父親に電話を掛けた。その間何も無い部屋の中、三人は気不味い雰囲気で浅田の帰りを待った。

暫くして浅田が戻って来たと思ったら、光流を正面から見て小さな吐息を漏らした。
「取りあえず行こう、荷物はそれだけ?」
「あ、はい……」
一体どういう事になっているのか光流は不安な面持ちで答え、鞄を手にした。
「いつまでも路上駐車って訳にはいかない、とりあえず俺の部屋に行こう」
それだけ言って浅田は、外に出た。その後ろを慌てて三人が追う。

アパートの外に出ると、二台の車が停まっていた。高級そうな外車に大柄な男と、若い男が乗り込み、その前に停めてある国産だがこれも一目で高級とわかる車に浅田が乗り込んだ。

「おい、こっちに乗って」
どうしていいか戸惑っている光流に、浅田が運転席から声を掛けた。ほっと安堵の顔をした光流が助手席に乗り込むと、二台の車はゆっくりと発進し浅田の住むマンションに向かって走り出した。



多分この部屋の持ち主は浅田の息子のはずだが、嫌な顔もせずに香り高い珈琲を淹れているのは『櫻井紫苑』と名乗った青年だ。光流は勧められたソファに腰を下ろして落ち着かないでいた。

「さあ珈琲どうぞ」どちらが客か分からないけど、その優しい雰囲気に光流は小さな溜め息を零した。
そんな光流をちらっと見て、浅田も紫龍も大きな溜め息を吐く。まだ会話らしい会話は交わしていなかった。
光流は内心、ここに居てはいけないような気がして、持って来た鞄に手を掛けようとした。だがその時紫苑が口を開いた。
「二人ともそんな怖い顔をしていたら彼が戸惑うでしょう?」優しい口調だったが、大人の二人を咎めるようにも聞こえ光流は紫苑の顔をやっと正面から見た。
少し癖のある髪が温かさを光流に伝えてくれる。

「あの……何かの行き違いがあったみたいですので……俺は帰ります」
「行く所は無いのだろう?」相変わらず横柄な口の聞き方をする紫龍に向かって光流は緩く口角を上げた。
「何とかなります……」
「高校生か?」
「はい……二年です」
何だか尋問のような問い掛けに、それでも光流は正直に答えていた。肝心の浅田は何を考えているのか分からない、相変わらず難しそうな顔をしてソファに深く腰掛けていた。

「浅田さん!」少し強い口調で呼ばれて浅田は、声の主の紫苑に顔を向けた。
「浅田さんが都合悪いのなら、僕が面倒みます」そうきっぱりと紫苑は言い放つ。
「し……紫苑」慌てたのは紫龍の方だ。
「彼……光流君って言ったよね?身よりが無いのでしょう?行く所が無いのなら……僕が……」光流は自分よりも辛そうな顔をしている紫苑に驚いた。

若くして肉親を亡くす辛さや淋しさなら、紫苑はイヤと言うほど知っている。両親を亡くし祖母も亡くした。もう社会人となった今の自分なら高校生の一人くらいは面倒見られると思った。

紫苑と光流が思いつめた顔をし、紫龍は困った顔をしている。紫龍は紫苑の気持ちが痛い程分かり、何も言えなかったのだ。
「ああ……そう言えば親父は高校生って言っていたな……」
「今頃思い出すかよ……」浅田の言葉を聞いて紫龍が溜め息を吐く。

「もういいんです。有り難うございました」光流は今度こそ鞄を手にして立ち上った。
「高校は何処?」立ち上った光流に浅田が問い掛けた。
「都立早川高校です……」
「え……僕の後輩?」高校の名前を聞いて辛そうな顔をしていた紫苑に笑顔が戻った。
「せ、先輩ですか……」見た目の印象で光流は紫苑を幼稚舎からあるような私立だと思い込んでいた。だが先輩と聞き何だか嬉しく思った。数時間の縁でも、同窓だと思うと少しだけ身近に思えたのだ。

「ここからだと三十分くらいだな。空いている部屋は今物置みたいになっているから、片付くまでリビングでいいか?」
ここに住む事を前提とした問い掛けに光流は驚いて固まってしまった。
「浅田さん、いいの?」光流よりも嬉しそうな顔をして紫苑が尋ねる。
「別に私はいやだとは言っていませんよ、ちょっと驚いただけです」
「良かったね、光流君」紫苑が光流の手をとり、自分の事のように喜んでくれた。
「本当にいいんですか?ご迷惑ではないですか?」

年齢的に結婚するには適齢期である浅田なのだ、光流が同居する事で恋人との間に不都合が出来てしまうのではないだろうか?などといらぬ心配もしてしまうが、それを口に出す程まだ親しくなれていない。
逆に浅田の言葉に光流の方が困ってしまった。

「浅田良かったな、これで淋しい部屋に戻る事が無くなったな」慰めるような揶揄するような紫龍の言葉に浅田が片眉を上げた。
「余計なお世話だ」

「そういえば……浅田さんって恋人はいないのですか?」光流も気になっていた事を紫苑が躊躇いも無く聞いた。
「私は仕事が恋人です」そうきっぱりと浅田は答えた。

光流は、この三人の会話を聞いていて少し首を傾げる。若い紫苑に対しては丁寧な言葉を使い、偉そうな紫龍には横柄な口を利く。

「改めて紹介しよう。この態度の悪い奴が俺の雇い主で同級生でもある堂本紫龍だ。そして彼が櫻井紫苑君。この春からDOMOTOに勤務している」
「はい……僕は杉山光流です」
「ふふ……良かったね光流君。仲良くしようね」
光流は紫苑の差し出した白魚のような手を、おずおずと握り返した。

「さあ、俺達は帰ろうか?」
「えっ、もう?物置になっている部屋を片付けて光流君が住みやすいようにしないと……」
「いえ、そういう事は僕がやりますから」世話になる身なのだから、そのくらい自分でしないと罰が当たってしまう。

「あなた方はとっとと帰って下さい」
だが浅田はそう言って、自分の上司である紫龍と可愛い部下の紫苑を部屋から追い出した。
「さて……」
今度は光流に向き直り、初めて正面から光流を見据えた。


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それでも愛してる 3 [天使が啼いた夜 番外編]

「櫻井紫苑君?」
「……ごめんなさい」
帰りの車の中で紫苑は小さくなっていた。光流に自己紹介する時につい『櫻井紫苑』と言ってしまった事を紫龍は、暗に責めているようだった。
どう見ても自分と紫龍では兄弟に見えない、かと言って親戚というのも抵抗があったのだ。会社では堂々と言えるのに、どうして隠してしまったのか自分でもよく判らなかった。

純粋な目をした光流の前では、ただ言えなかっただけなのだ、他意は無かった。だけど紫龍を傷つけた。だが、浅田も紫龍もその場では何ら訂正しなかった。
「まあいい。どう名乗ろうが紫苑は紫苑だ」
「はい……」
光流とは友達になりたかっただけだ、お互いをよく知る前に偏見の目で見て欲しくなかった。
「友達になれそうか?いや、なってやってくれ」
「勿論!」車に乗り込んで初めて紫苑が笑顔を見せた。そんな紫苑を、ハンドルを握りながらちらっと見る紫龍の目は、怒りも悲しみも無かった。

「飯でも食って帰るか?」
「もう魚の下ごしらえも終わっているし……家で食べたいです」
「大変じゃないか?毎日。休みの日くらいのんびりすればいいのに……」
毎日真面目に仕事をした上に家事まできちんとこなし、その上主婦顔負けの食事を用意してくれる紫苑に労りの言葉を掛けるが、紫苑はその気持ちだけで充分だった。紫龍には栄養バランスの良いきちんとした食事を摂ってもらいたい。

「そうか、俺も紫苑の手料理の方がいい。だけど無理はしないでくれよ」
「はい、でも結構手抜きもしているんですよ」
「そうか?」全くそんな事は無いと思ったが、きっとそんな話をしたらキリが無いと思って紫龍もその話は終わりにした。

それよりも肝心な話がしたい。
「えっと……夕べはゆっくり眠れたか?」
夕べは世話するのが赤ん坊だと思っていた紫苑が、夜の交わりを拒否したのだ。折角の休日の夜だったのに……と紫龍はそっちの方が残念で仕方なかった。

信号待ちの僅かな時間に紫苑の耳元に唇を寄せて、まるでキスするかのように囁いた。
「今夜はしような……」
一週間ご無沙汰だ、紫苑は真っ直ぐ前を向いたまま、小さく頷いた。その頬が染まるのを確認してから紫龍はアクセルを踏み込んだ。


一方浅田の部屋では大掃除が始まっていた。指示してくれれば自分でやる、と言う光流の言う事など聞かないで、浅田はテキパキと動いている。言う程取り散らかっていなかったので、一時間ほどで部屋は見事に片付いた。
「これでいいでしょう」浅田が満足げに呟いたのを光流は緊張した面持ちで聞いていた。
その緊張は、浅田の部屋に来てからずっと続いている。

「荷物はそれだけ?」
光流の持って来た二つの鞄を見ながら、浅田が聞いて来た。
「いえ……明日辺りには届く予定です」小さくなって光流がそう答えた。
「ここに?」
「……はい、先日浅田さんのお母さんが片づけを手伝いに来て下さって……」
光流は今直ぐにこの部屋から飛び出したいような気分で言葉を続けた。家主に勝手に荷物を送り付けたのだ、不愉快に思われるのは分かっていた。

「そうですか。私は明日仕事ですので、自分で荷物受け取れますよね?」
浅田の口調は今までと何も変わっていない。あの堂本紫龍という男には砕けた口調だったのに、紫苑や自分には、こういう口調なのだ。
「はい……」
「少し埃っぽい、私は軽くシャワーを浴びてきますので、君も後でシャワーを使いなさい」
「はい……」

浅田がそう言って部屋を出て行くと、光流はへたへたと床に座り込んで大きな溜め息を吐いた。緊張の連続で眩暈がしそうだった。
だが、もうここで生活して行く事が決まったのだ、浅田に嫌われないように、迷惑を掛けないように気を付けようと心に誓った。


浅田は温めのシャワーを浴びながら、あの日の事を思い出していた。
一年程前、紫龍が紫苑を伴って名古屋に一泊で出張した日だ。ぎっくり腰で動けなくなった父の代理で葬式に出席した。一度も会った事のない人の葬儀など、はっきりいって億劫であった上に、車で名古屋までデート気分で出かけた社長である紫龍に当て擦りのように、社の黒塗りの車で会場に乗り付けたのだ。ああいう派手な事は自分らしく無かったが、勢いもあってそんな事をしてしまった。

そして喪主を見て驚いたのを憶えている。それは高校の制服を着た少年だった。
本当に小さな形式だけの葬儀に、黒塗りの車で来てしまった事に少年を見て後悔もした。芳名帳に父の名前を書いただけで、喪主の少年に特別に声を掛ける事もしなかった。それも後に後悔した事だった。


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それでも愛してる 4 [天使が啼いた夜 番外編]

 光流は少しずつ浅田との生活に慣れて来ていた。だからと言って二人仲良く語らう訳ではない。朝の挨拶をして光流はやらなくてもいいと言う浅田の言葉を無視するように、朝食の支度を整えていた。

 最初の頃は不機嫌な顔をしていた浅田も、三か月も過ぎた今では、当然のように、光流の用意した簡単な朝食を一緒に摂る。
 そして、お互いの一日の予定を簡単に告げ合う。だが大概浅田の帰宅は遅く、光流が一人で食事を済ませ、自分の部屋に戻った頃に帰宅する生活だった。

「ただいま」
 いつの頃からか浅田は誰にともなく帰宅の声を掛ける。気配を感じた光流が「お帰りなさい」と出迎えだけして、また部屋に戻る。気を使いあっているようで、空気のような存在になりつつあった。

「志望大学は決まりましたか?」
「はい……」
珍しく浅田がそんな事を聞いてきた。光流の中ではとっくに志望大学は絞り込まれていたので、素直に大学の名前を告げた。
「そうですか。頑張って下さい。予備校は行かなくてもいいのですか?」
「いえ、自力で何とか頑張りたいと考えています」
 光流はなるべく無駄な金は使いたくなかった。浅田の父親が管理してくれている通帳から、使い勝手が良く、光流が生活費を引き出せるように別に口座を作ってもらっていた。

 高校の授業料は浅田の父が直接手続きをしてくれているから、光流はその新しい口座の金を自由に生活費に充てる事が出来たが、ここにいると特別に大金は必要無い。無いどころか、食費すらかからないのだ。
 いつの間に買い物をするのか、いつも冷蔵庫の中には新鮮な食材が入れてあった。それを浅田は勝手に使いなさいと言うだけで、食費を払うと言う光流を相手になどしなかった。
 とても助かるが、それでは気が重くて、光流は交換条件のように家事をやり出した。だが浅田は光流の気持ちが判るのか、それ以上は何も言わない。

「来週から家庭教師がここに来ます」
「え……家庭教師! 無理です……」
 光流は先に家庭教師に支払う金を頭の中で計算してしまった。そんな光流を見て浅田は失笑する。こんな顔は珍しかった。
「紫苑君が買って出てくれました。だから来る日は未定です。紫苑君が都合の良い日に来てくれるそうです」
「紫苑さんが……仕事も忙しいでしょうに……」
「彼は器用な人ですから、気にしなくても大丈夫ですよ」
「でも……」
「光流君が上手くいけば、紫苑君の後輩になります。それに彼はDOMOTOにトップ入社する程に優秀ですから、きっと教えるのも上手いと思いますから私も安心です」
「え……」
 最後の言葉に光流は狼狽えてしまった。浅田が自分を心配してくれていたとは思っていなかった。何だか嬉しかった。
「はい、ではお言葉に甘えて……宜しくお願いします」
 光流は、浅田に向かって頭を下げた。
「教えるのは私ではありませんよ」
 そう言いながら浅田の口元が緩んでいたのを光流は見逃さなかった。
(そうか……)光流は浅田の機嫌のいい理由が分かって、少しだけ落ち込む。


 浅田の言ったように、次週の火曜日の夜に紫苑がやって来た。
「こんばんは」
 天真爛漫な明るさを光流に見せながら紫苑は部屋に入って来た。勿論案内してきたのは浅田だ。
「こんばんは。忙しいのに僕の為に時間を割いて下さってありがとうございます」
 光流の言葉に一瞬驚いたような顔をした紫苑が、口元を緩め微笑む。
「頑張ろうね。僕に出来る事なら何でも協力するよ」
「はい」
 光流は戸惑いながらも頷くしかなかった。
「これは、お夜食だよ。あとで食べてね」
 紫苑は大きなタッパをテーブルの上に二つ置いた。

「紫苑君、そんな事に気を使わないで下さい」
 紫苑と光流の間に浅田が割って入って来る。
「料理は僕の趣味みたいなものだから、浅田さんも気を使わないで下さいよ」
「そうですか、ありがとうございます。紫苑君の料理は美味いから楽しみです。あ! 夜食でしたね……」
 浅田は自分も頂く事を前提として喋ってしまい、肩を竦めた。
「勿論浅田さんの分もありますから、食べて下さいね」
 紫苑の言葉に肩を竦めたままの浅田が口元を緩めるのを、光流は黙って見ていた。


 それから週に3回ほど紫苑は浅田のマンションを訪れていた。紫苑の教え方に光流は何ら文句も無かったが、終わると必ず浅田が紫苑を送って行く事に、違う意味で負担を感じていた。勿論紫苑も仕事をしている身だが、浅田とて忙しいのだ。毎回浅田に無駄な時間を割かせるようで気が重かった。

 一方帰りの車の中で紫苑は、浅田に報告をしていた。
「光流君はとても優秀ですよ。このまま行ったら必ず合格出来ると思います」
「そうですか、紫苑君にそう言って貰えると私も安心です」
 浅田はハンドルを握りながら安堵の息を吐いた。
「その上毎回夜食まで持って来てもらって、何と礼を言っていいやら」
「僕が大学受験の時には、いつも祖母が夜食を作ってくれていました。浅田さんもそうでしょう?」
「ええ、私も母がいつも何かこしらえてくれていました」
「それって何か嬉しいですよね……」
 紫苑が昔を懐かしむように話す。今はいない祖母の愛を思い出すように……。
「光流のために、ありがとうございます……」
「だって浅田さんも光流君の為に色々頑張っているでしょう? 僕はその手伝いをさせてもらっているだけだから」
 
 紫苑が光流の勉強をみたいと言い始めたわけではなかった。勿論何か力になれる事があればとは考えていたが、浅田との生活も落ち着いた今、外から口を出すのも躊躇いがあったのだ。
「紫苑君、週に1度のペースで良いのですが、光流の勉強の進み具合を見てくれませんか? 予備校に行くように言っても行こうとしないのもので……」
 そう浅田から声を掛けられ、頭を下げられた紫苑は喜んでその役を引き受けたのだ。説得が厄介かなと思っていた紫龍も気が抜ける程簡単に許してくれた。
「俺は、紫苑がやりたいと思った事を駄目だとは言わないぞ」と。

 考えてみれば、今まで紫苑の趣味に口を出して来たこともない。家庭菜園も家の事も紫苑の好きにさせてくれている。だが、今回はある程度生活を乱してしまうのだ、それでも紫龍は、断ったら紫苑が後悔するだろうと揶揄する。
「さすが紫龍、僕の事なら何でも判ってくれているね」
 紫苑はそう言って、紫龍の肩に体を預けた。今自分はこんなにも幸せだ。周りの全ての人に感謝し、おこがましいが誰かが幸せになる手伝いをしたいと願う。

 紫龍と暮らす部屋の玄関まで浅田は毎回送り届けてくれる。何度遠慮してもだ。
「貴方にもしもの事があったら大変ですからね」
 おどけたように言う浅田は、玄関のドアを見ながら口角を上げた。
「では、次は?」
「金曜日の夜に伺います」
 浅田は金曜日のスケジュールを頭の中で開いた。きっと紫苑の中にも同じスケジュールが刻まれているのだろう。自分の仕事と社長である紫龍のスケジュール管理まできちんとこなしている紫苑に今更ながら脱帽してしまう。
「では、金曜日宜しくお願いします」
「はい、おやすみなさい。帰り道気を付けて下さいね」
 ドアの前で紫苑に見送られて浅田はエレベーターに向かった。紫苑は浅田がエレベーターに乗り込むまで必ず見守る。くすぐったいような気分で浅田は扉が閉まる瞬間に軽く微笑み帰路につく。

「ただいま」
「お帰り紫苑。ちょうど風呂の湯が溜まった頃だ」
「ありがとう」
 紫苑が光流の所に行くようになってから、紫龍が少し変わった。今まで家の事を何もしなかった紫龍が、風呂の湯を張ってくれるようになった。たったそれだけの事でも紫苑の負担は減るし、その気持ちが嬉しかった。
「一緒に入ろう」
 紫龍の言葉に、笑顔で応える紫苑だが、紫龍の手伝ってくれる魂胆がこの辺にある事は不問にすることにしていた。


「ただいま」
 浅田が玄関を開けると、部屋には美味そうな匂いが漂っていた。今夜は鍋焼きうどんらしい。
「美味そうですね」
「土鍋まで持って来てくれました」
 一人用の小さな土鍋が二つコンロにかかっていた。紫苑が来るようになってから、浅田と光流の生活もまた変わり出した。光流は学校から帰ると夕方軽めの食事を一人で済ます。紫苑が来るのはだいたい八時頃。そして勉強も終わり頃に浅田が帰宅して、紫苑を送って行く。その間に紫苑が用意してくれた浅田には遅めの夕食、光流には早めの夜食を頂く。光流は食事が終わると少し休憩をしてから風呂に入り、十二時を示す頃にまた机に向かい、二時間程復習をしてからベッドに入る日々だった。規則正しい生活と、紫苑の心づくしの食事のおかげで、光流も勉強にも集中する事が出来き、前から良かった成績も更に上昇して来ていた。健康状態も頗る良かった。

「次は、金曜日にみえるそうです」
 浅田が鍋焼きにたっぷり入った野菜を美味そうに食べながら、次に紫苑が訪れる日を教えてくれた。
「金曜日……」
「はい、私は社長のお供で名古屋に出張ですので、その日は紫苑さんに泊まってもらう事にしてあります」
 浅田のスケジュールをしっかりと把握した紫苑の行動に光流は内心舌を巻いていた。今までだってそうだった。送りは別として浅田の負担にならないような訪問なのだ。

 今回の家庭教師を引き受ける際に、紫苑が出した条件は紫龍との関係を光流に教えないという事だった。年頃の光流に余計な不快感と、刺激を与えたくないという理由からだ。それには浅田も紫龍も頷くしかなかった。だから光流は紫苑が浅田のスケジュールを把握している事にずっと疑問を持ったままだった。

「どうしました?」
「いえ……紫苑さんはどうしてこんなに良くしてくれるのかな? と思って」
「そういう性分なのでしょう」
 浅田は、紫苑の生い立ちや境遇を話すつもりは、今の所なかった。実際紫苑ほどに家庭教師にうってつけの人材はいないと思っている。かなり負担を掛けているのは判っているが、それでも浅田は紫苑だけが頼りだった。光流にはどうしても一発で難関の大学に受かってほしかった。そうでなければ光流はきっと大学進学を諦め働くと言い出すだろうと思っていたからだ。あと三か月……ここからが正念場なのだ。
 光流が無事合格した暁には、三日間の休みを与える事が、紫龍からの条件だった。紫龍は紫苑を連れて温泉旅行に行きたいと言い出す始末だ。浅田は紫苑への礼も兼ねてその旅行の手配を買って出ていた。勿論経費も全て浅田持ちだ。だが紫苑はそんなものでは追いつかない程の事をしてくれている。

「ご馳走様でした」
 光流が手を合わせ感謝の言葉を口にする。この子も良い育て方をされてきたのだと分かり浅田も口元を緩めながら、手を合わせた。


 そして金曜日の朝、浅田は土曜日の夕方に戻ると行って出て行った。光流も学校に行く準備を整え、浅田よりも少し遅れてマンションを出た。基本浅田は、帰宅は遅いが泊まりで出張など今まで無かった。今夜帰宅しないのだと思うと、一抹の寂しさを覚えながら光流は学校に向かった。

 そしてその夜、紫苑は予定よりも早くマンションのチャイムを鳴らした。手には沢山の食材の入った袋を下げている。
「今夜はお泊りですから、お夜食はここで作りましょうね」
「そ、そんなに材料を?」
「はい。期待していて下さいね」
 どうしてこの人はいつも笑顔なのだろうかと光流は思っていた。何の悩みも問題も抱えていないだろう紫苑が材料をテーブルの上に出すのを手伝いもしないで、ただ眺めていた。
「あの、家庭教師の謝礼はどうしたらいいのでしょうか?」
 光流の問いかけに紫苑はとても驚いた顔で振り返った。
「そんなの要りませんよ」
「でも……」
「光流君が無事大学に入学して、卒業して社会人になったら、一度食事ご馳走して下さい」
「そんな先の話を……」
「先の約束が出来る事はとても幸せな事だと思いませんか?」
 紫苑が光流の顔を覗き込むように尋ねて来た。光流は紫苑の言葉に眩暈がしそうだった。何という考え方……こんな考え方を光流はした事が無かった。浅田が惹かれるのも無理はない……。
「そうですね。4年と少し待っていて下さいますか?」
「喜んで」
 本当に紫苑は楽しそうに笑った。光流もつい釣られて笑顔を浮かべてしまう。
「さあ、勉強始めましょうか?」

 帰る時間を気にしなくていい紫苑はいつもよりも長く勉強を見てくれた後に、夜食だと言って日本蕎麦を茹でている。聞くと自分で打った蕎麦だと言う。
「紫苑さんの一日って三十時間くらいあるんじゃないですか?」
「ふふ、そうだね。あれば嬉しいな。やりたい事はたくさんあるからね」
 この人には負の感情が無いのではないかと思う。光流は出来たての蕎麦をすすりながら、そんな事を考えていた。
「美味しいです」
「そう、良かった」
「あの……紫苑さん、恋人いないのですか?」
 いたら自分の為にこんなに時間を割いてもらって本当に申し訳ないと思った。
「う……ん、好きな人はいるよ」
 少しだけ歯切れの悪くなった紫苑に、これ以上聞いてはならないと光流は何となく気づいてしまった。
「この天ぷら美味しいです」
 そう言って自ら振った話を光流は逸らした。



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